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2018.11.10

鮭の塩引き

[乾物料理海の生き物淡水魚]

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今回お世話になったのは、『千年鮭 きっかわ』さんです。
この風景、みなさまも一度はテレビや雑誌など、どこかで見たことがあるのではないでしょうか?
鮭料理の横綱『鮭の塩引き』です。
※この贅沢な光景は一年中見学できるようになっています。しかも無料です。

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村上の塩引きは、なぜこんなに美味しいのか?
鮭の塩引はまさに村上の気候風土の中で時間をかけ、
熟成により生まれる独自の味わいを持つ魚だからです。
新潟県内の他の場所や、日本のどこか他の地域で同じように仕込んでも
同じ味にはならないことがわかっています。
地図を見て、山、海の地形を見ていると
村上にしか通らない特別な風の通り道が浮かび上がってきます。
大きなポイントはその風だそうです。
海の近くでは風が強く乾燥が進みすぎ、山の方に4〜5kmいくと湿度が高すぎて乾きません。
風の質を作るのは地形。
海から3kgほど入ったこの場所、そして山からの風。
この条件が村上の鮭を美味しくする大きなポイントになっています。

仕事の始めは鮭に合掌し、まさに丹精を込めて粗塩を鮭に引いていきます。
4,5日漬け、10℃以下、湿度約70%、北西の冷たい風にあて、3,4週間ほどじっくりと干します。
この凛とした清い北西の風を受け、鮭がアミノ酸発酵により熟成し、
他の鮭では味わえない独特の旨味が生まれます。
完成した塩引きを開いた瞬間の香りは発酵熟成の良い香りがするそうです。
ちなみに、南東の風の日は鮭を吊るしません。
吊るすと、たった一晩で翌日鮭のウロコの中にカビが発生し白くなってしまうのだそうです。
風のマイナスイオンの数値も計ったことがあるそうです。
すると、南東の風の数万倍のマイナスイオンが含まれているのが北西の風だということがわかったそうです。

『良い風味』という言葉がありますが、風がつくる味と書きます。
まさに風が味に強く影響することを意味しています。

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さらには、トルマリン鉱石を床下に敷き詰めることで
さらにマイナスイオンが発生し、サケや人間に最適な環境が作られていました。

今回、『鮭の塩引き』を見せていただけることになりました。
この日は、早朝からハラコの醤油漬けの工程を見せていただき、
ひたすらにメモと写真を撮っておりました。
ユーモアを含んだきっかわ社長のお話はすべて勉強になることばかり。
冷たい風が吹き抜けるこの寒い鮭空間と、
僕の緊張を和らげてくださるような笑顔。
その社長が今度は塩引きを実演してくださるということで準備に行かれました。

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無駄なものがなく、綺麗にしつらえてある水場。

数分後、
社長が前掛けをしていらっしゃいました。
顔からは笑顔が消えています。
何かいけないことをしてしまったかな。。。。
怒ってらっしゃるのかな。。。
いえ、違いました。
完全に、鮭の塩引きモードに切り替えられていました。
まさに真剣な表情に。
僕もすぐにモードを切り替えました。

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しかもなんと、
今回、塩引きしてくださる鮭は
7kg以上の大型のオスです。
遡上前に海で獲られた鮭(銀毛)はヌメリが少ないですが、
川に入ってから婚姻色が出た大きい鮭(ブナ毛)はヌメリが多いそうです。
海の場合、水深があるため体を海底の砂利や石などで傷つくことは少ないですが、浅場を含めた川を遡上するとなると体がヌルヌルしているほうが、浅い砂利の川で少しでも体を傷める機会が減るようにと進化をしていくわけですね。
鮭の環境適応力がとにかく凄い!

【超熟成 塩引鮭『千年鮭 極み』】という
特別な商品に使われているこの7kgUPサイズの鮭。
北西の風で1ヶ月間発酵させただけでなく、
長年かけてたどり着いた独自の製法で更に半年以上熟成させた、
極めつけの塩引鮭です。

いよいよ、鮭の塩引きの仕込みが始まります。

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鮭1尾,1尾に必ず毎回手を合わせるきっかわ社長。
鮭に対しての敬意を、最初から最後まで様々な箇所で感じました。
鮭の向きについても注目です。
この後、頭を逆に向けてヌメリをとる作業が始まるので、
初めから頭を反対向きにおいて仕事を始めれば
無駄な工程を一つ省くことができます。
しかし、頭が右を向いた鮭に頭は下げられないと、
わざわさ、手を合わせる前に鮭の頭を左にしてまな板に置き、
目を瞑って、手を合わせてから仕込みを始めるという。
魚を扱うものにとって、尊敬すべき行動です。
先代のお父様も、勿論同じように手を合わされていたそうです。
サケが物ではなく、命だということを毎回感じるために。

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鮭にはあらかじめ軽く塩を振っておくことで、
『ナジ』・『ヌラ』と呼ばれる鮭のヌメリが取りやすくなります。

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スルッと持ち上げて頭を右に返し、隅から隅までヌメリを取っていきます。
その他の魚なども同じですが、このヌメリをこの時点でしっかりと取り除いておかないと塩が入りづらいのと、仕上がりの生臭みにつながるからです。


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ヌメリを取るのに最適な刃のついていない包丁のような形の道具。


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塩引鮭の場合は、頭ごと商品にもなりますから、
頭、カマの隅々までヌメリをとっていきます。
サイズが大きこともあって、ヌメリ取りだけで5分は軽く超えていました。

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尻びれ、胸ビレ、すべてのヒレのヌメリを丁寧にとっていきます。

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時に強く、だけど優しくヌメリをとったら、水で洗い流していきます。
ちなみにこの時期の井戸水冷たそうに思えますが、年中約12℃、
冬場は実は温かく感じるそうです。

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道具を包丁に持ち替えて、鰓蓋(エラブタ)をあけて、
エラのつなぎ目を切っていきます。

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綺麗にエラが外されました。
エラはサケ言葉では『カゲ』と呼ばれます。
真っ赤なエラ血液を水にさらして白くなったら
これもサケ料理にすることが可能です。

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次は腹を開いて内臓を取り出す工程です。

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肛門から包丁を刺し入れて、頭に向かってスゥーっと、
んん!??
最後までいかずに、一度包丁を抜いて??

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またそこから刺す!?

そうなんです。
通常の魚の解体ならお腹をすべて切ったほうが、
内臓も取り出しやすいし、洗いやすいわけですが、
塩引き用の鮭は腹をすべて切りません。

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確かに、お腹のこの部分、繋がって吊るされていました。
頭を下にして吊るすのは、大事な鮭を首吊りみたいな格好で干すわけにはいかない!という意味でしたが、お腹の一部をくっつけたままにするさばき方は
『止め腹』・『繋ぎ腹』と呼ばれ、切腹を嫌った侍の町、
大事な鮭に腹切り(切腹)をさせないため、という意味があるそうです。
城下町村上の鮭を大切にしてきた文化の表れですね。

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内臓もすべて食べる文化ですので、傷つかないように
注意して包丁を入れていきます。

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心臓は『ドンビコ』と呼ばれます。ドンドンビコビコしているからですね。

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オスですので、白子が出てきました。

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肝臓

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左:胃袋 右:幽門垂(ゆうもんすい)

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脾臓(ひぞう)

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世間的によく『血合い』と呼ばれている部分を専用の道具で丁寧にとっています。ここも食べるからです。
ちなみに、ここは血合いではなく、腎臓(血腸)。

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こちらが、腎臓を綺麗に取るための特殊な道具です。
初めて見ました。

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オス鮭の腎臓の塩辛は『めふん』という珍味になります。
メスの腎臓はオスに比べて自己消化が激しく傷みやすいため
オスのもので作るそうです。
ちなみに、メスの腎臓で作ると2年経ってもピチャピチャして生臭いとのこと。
語源は、アイヌ語の『メフル=腎臓』からきているそうです。
鮭の中骨に沿って付いている腎臓を取り出し、塩水で洗い、塩を混ぜて瓶などで熟成させます。1年以上経つと原型をとどめないほどトロトロになります。
めふんは、平安時代に朝廷に献上されていたというから驚きです!
この腎臓には鉄分が多く含まれていて女性にはぴったりなので
女が奮い立つと書いて『女奮(めふん)』と漢字で書かれます。

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内臓の汚れを水で流したら、

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干して一番悪くなるのは目玉。
目には水分がたっぷりあるので、
目玉に内側から切れ目を入れます。
ただしこの切り方がクセ者、半端に切ると失敗します。
この目玉の切り方に気が付くまでは、5,6年かかったそうです。
目玉が淀んで、いつも目玉が臭くなってしまって、
現社長は大変な思いをされたそうです。
細かなポイントを敢えて息子に教えなかった先代からの
大きな宿題がクリアになった時、
それは一生物の宝になりますね。

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最後に細かなポイントとして、腹の付け根あたりの骨もカツカツカツと刃を入れ、しっかりと掃除されていました。

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ここはあまり味には影響がない部分なんだけど。
と言いながらも
身と薄皮の間にある血管の血液も手で抜いていました。
味に影響なくても、綺麗にして干したいと。
これがきっかわさんです。


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まな板を綺麗に洗い流しここまでが鮭の下処理です。

塩引きはこれからです。

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下処理した鮭の水気を拭き取り

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たっぷりの粗塩を用意します。


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ここでもまた鮭に対して目を瞑り、手を合わせます。
鮭の頭を左向きにおいて。

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いよいよここからが、塩引きです。

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粗塩を手にとり、鮭の鱗に逆らうように塩を擦り込んでいきます。
そうなんです。
鮭はウロコをとらずウロコも普通に食べる魚なんです。

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『生の鮭 × 塩 × 素手』

吉川社長は、塩引きを素手で行います。

『手がボロボロにならないんですか!?』

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『コツがあるんですよ。』と吉川社長。
その次の瞬間、

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鮭の表裏を返すと同時に、塩引きする手も
右手から左手に代わりました。
鮭に対して絶妙な角度でなでるように塩を擦り込むこと、
左右の手を両方使うことで、利き手だけボロボロにならないように工夫すること、毎年、塩引きをしている者にだけわかるとてもストレートなお言葉でした。

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こちら側も上下に素手を動かし、ウロコの間、ヒレの付け根、尻尾と、しっかりと塩を擦り込んでいきます。
余談ですが、サケのヒレで作る、サケのヒレ酒もかなり美味しいんだそうです。

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ただ塩を擦り込んでいるだけではない、
小さな子供の背中を優しくさするような、
鮭に対して感謝の気持ちを、この塩引きの仕方からも感じました。

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顔の形、肌の色によって塩の入り方が違うため
塩引きにレシピはありません。
力だけでも塩引きはできません。
鮭が良いと言うまで塩引きをするそうです。

水戸口(みとぐち)と呼ばれる海と川の汽水域の河口付近。
海水から淡水に入る準備をしている婚姻色が出てきたサケは浸透圧耐性準備の関係か塩がスッと入るそうです。
これは塩引きをしている人にしかわからないことですね。

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鰓蓋(えらぶた)の内側にもしっかりと塩を擦り込みます。
目の中、目の裏側、腎臓の付け根部分には多めに塩を利かせておきます。

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お腹の中にもしっかりと塩を利かせていきます。

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腹をビシっと閉めて、塩引き完成です。

吉川真嗣社長 54歳(平成30年現在)
6人兄弟の次男坊。
兄がきっかわを継がないと決まってからは、腹をくくったそうです。
父の背中を見て育ったから、父を自分が助けたい。
一度地元から出て、村上に戻ってきた27歳のころから
叩き上げで習得してきたこの技。
一尾一尾の魚に毎回真剣に向き合う姿勢は
現代人の食の在り方について、
魂を揺さぶられるメッセージ性があります。
これぞまさに、食材魂です。

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こちらは『はんぼ』という秋田杉で作られた桶です。
この作り手さんは能代にいらっしゃるそうです。
鮭を入れる専用の桶、通常は『はんぎり』・『つけおけ』などと呼ばれるようです。

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大きい鮭がしっかりと湾曲して入るようになっています。

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目の中、ヒレまでしっかりと塩引きされています。

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なんどもなんども素手で擦り込まれた胴体分。

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2尾目の鮭も綺麗に収まっていきました。

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浸透圧ですでに鮭から水分が外に出てきています。
鮭それぞれの特徴によって塩加減を変えるわけですが、
この時期の皮の浸透圧がベストだそうで、銀毛では水がすぐには出てこないそうです。

以前は、ただ吊るしていれば、おいしくなると思っていたこともおありだったそうで、ある時、小学生たちと100匹ほど塩引き鮭を作って、干す場所がなかったので倉庫のようなところで干したら、いつまでも乾かない。
ヌメリをあまりとらなかったこともあり、窓があっても風が抜けなければ乾かないことがあったそうです。
他にも、温かい時期に鮭に塩を引いて、漬けておいたら、同じ時間漬けたのに、しょっぱくなり過ぎてしまったそうです。
美味しいものを作るために実験、研究を重ねて追求しているのがわかりますね!

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塩引きして1週間熟成させて、真水で洗って干します。
この大変な手作業が繰り返し行われ、
鮭の命は、食べ物となり、人間の命に変わっていきます。


塩引き鮭のご注文は
千年鮭きっかわさんのホームページよりどうぞ。
https://www.murakamisake.com