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夏休みの自由研究に「お寿司屋さんごっこ」がおすすめ? 話題の"すし作家"に聞く / AERA dot.(アエラドット)

[すし・sushiメディア岡田イズム海の生き物]

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【AERA dot.(アエラドット)】2022年8月15日
https://dot.asahi.com/dot/2022080300084.html?page=1
筆者:江口祐子さん


「お寿司屋さんのようにできなくても大丈夫!」とすし作家の岡田大介さんは語る

夏休み、子どもがもらってくる「夏休みの宿題リスト」を見て、
ため息をついているご家庭も多いのではないでしょうか? 
小学生の夏休みの宿題の中でも最も頭を悩ませる「自由研究」に
「寿司がおすすめ」と話すのが、寿司職人にして絵本作家の岡田大介さんです。
岡田さんの写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』は、
2022年度青少年読書感想文全国コンクール小学校低学年の部の
課題図書にも選ばれています。
「すし作家」の肩書きで活躍する岡田さんに、
自由研究から、絵本を作るきっかけについてまで、聞きました。


――『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』は
寿司職人である岡田さん初めての絵本ですね。
なぜこの絵本を作ろうと思ったのですか?

「お寿司」という身近な食べ物を通して、
子どもたちに生きものが食べものになるまでの過程をじっくり見てほしかったんです。
「お寿司って、もとは全部生きものなんだよ!」ということをできるだけ楽しく伝えたかった。
絵本では、キンメダイ、アナゴ、イカという、特徴や生態が違う3つを選び、
さばく前の魚の様子の観察から始めました。

――写真もたくさん使われていて、子どもたちの楽しそうな様子が印象的です。

絵本に出てくる子どもたちの反応は、演技ではなくそのままの様子を載せました。
「イカが苦手~」と言っていた子もだんだん目をキラキラさせて興味を持ち始め、
お寿司にして「へい、おまち!」と言って出してあげると「おいしー!」と食べてくれました。

――そもそも岡田さんはなぜ寿司職人になったのですか?

料理の道に入るきっかけは、大学浪人中に母が急死したことです。
父と僕、そして妹と弟が残されました。
母が突然いなくなった悲しみだけでなく、
毎日食事を作ってくれていた母がいなくなったことで、
毎日のご飯に困る生活になりました。
父も僕も料理が得意でなかったので、外で買ってきたものを食べたり、暴飲暴食をしたり。
そんな生活を続けていくうち、当時小学2年生だった弟が体調を崩してしまったんです。
その理由が食生活の乱れが原因であることがわかり、
その時、きちんと食に向き合いたい、と強く思ったんです。
そこで大学進学をやめ、料理人になることを決めました。
日本人だからやっぱり和食だろうと、最初は割烹料理屋に修行に入りました。

――料理ができなかったところから、料理人になると決心したのですね。
なんでもできるタイプだったのですか?

いえ、小中高まで絵に描いたような普通の少年でした。
通知表はオール3タイプというか。
バランスはいいけど飛び抜けてもいない。
今、魚がすごく好きなので、「昔は理科や生物が得意でしたか?」などと聞かれるんですが、
残念ながらそうでもなく。
5教科の勉強ではグッと入り込めるものはなかったですね。
でも、勉強自体は好きだったんです。
料理屋に修行に入ってからは、毎日お店が終わってから教わったことをメモして、
自分でも調べて、ノートにまとめて。
おかげで、すごい勢いで知識を吸収していきました。
勉強していくなかで自分は魚が好きだ、ということがわかったので、
途中で寿司屋に転職しました。
そこでも、皆がお店が終わって飲みに行ったりしているなか、黙々と勉強していました。

――なぜそこまで努力できたのでしょうか?

 職人の世界は上下関係がはっきりしているので、
どうしても若者は下に見られてしまうんですね。
それが悔しくて。
だったら少しでも知識をつけて自信をつければいい、だったら勉強しよう、と思ったんです。
素材、調理技術、味付けなど、寿司職人の勉強はいろいろありますが、
なかでも魚に関する勉強はとても楽しかった。
魚を見ている時、触れている時、食べている時、すべてが楽しい。
修行に入った当初はどの魚がアジかもわからない状態だったのに、
今ではアジだけで10分はしゃべれる。
僕の場合は、大人になってから「さかなクン」になった感じですね(笑)。

――絵本では子どもたちが魚に夢中になっていく様子が描かれています。
夏休み、子どもたちが楽しく自由研究に取り組むのに、おすすめはありますか。

子どもの学年に関係なく、魚が好きか、嫌いかに関わらず、
おすすめしたいのは「お寿司やさんごっこ」です。
ズバリ、家族でお寿司を作ってみること。
買い物からでもいいですし、本格的にやるなら魚を釣るところからでもいい。
学年によって材料は親御さんが用意して
酢飯を丸めて上に魚の切り身を乗せるところだけをやってもいいし、
高学年なら魚をさばくところからトライしてみてもいい。


お寿司を作る、というと難しそうですが、
「酢飯の団子に魚の切り身を乗せたもの」と考えればいいのです。
形はどうでもいいし、上にのせる魚も子どもが好きなものでいい。
どうしても魚が苦手な子なら玉子や野菜、お肉でもいいんです。
大事なのは、「家族で楽しくやってみる」
「最後にはできたものを並べてみんなでおいしくいただく」ということ。

 みんなで作ったものを並べると
「これは不恰好だね」「これは酢飯が大きすぎるね」などいろいろな感想が出ると思います。
正解がないのもいいじゃないですか。
「お寿司屋さんみたいにキレイに握るのはどうしたいいんだろう?」
「このお魚はちょっと生臭くなっちゃったのはどうしてだろう?」などといった
独自の疑問が出てきたらより素晴らしい。
それも自由研究として書いてみるといいですね。

――他におすすめはありますか?

 絵本にも載せていますが、「イカを捌いてみる」はそれだけで自由研究になりますよ。
何しろ形が面白いし、イカ墨を使って絵を描いてみる、なんていうこともできます。
子どもは喜んでやりますよ。
「自由研究」と固くるしく考えず、エンターテイメントとして楽しんでみるのがおすすめです。

○岡田大介(おかだ・だいすけ)すし作家、寿司職人
1979年、千葉県生まれ。18歳で食の世界に入り、24歳で寿司職人として独立。
2008年、東京にて完全紹介制の寿司屋「酢飯屋」を開業。
寿司の技術や知識を生かした情報発信やワークショップなども行っている。
『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)で
第69回産経児童出版文化賞JR賞、第27回日本絵本賞受賞。2児の父。

(構成/江口祐子さん)