ブログ

がざみ・ガザミ・Portunus trituberculatus

[すし・sushi海の生き物]

エビ目カニ下目ワタリガニ科ガザミ属ガザミ。
食用として重要なカニで、【わたりがに・ワタリガニ】とも呼ばれています。
夏場(7月〜11月)はオスが旬。
冬場(12月〜5月)は、内子入りのメスが旬。

CIMG0343.jpg
福岡県北九州市 豊築漁協から届いたガザミ『豊前本ガニ(ぶぜんほんがに)』
かなりいいサイズでした。

CIMG0344.jpg
甲幅は15cmを超える大型のカニで、オスがメスより大きいです。
甲羅の背面は黄褐色ですが、甲羅の後半部分や鋏脚、脚などは青みがかっており、白い水玉模様があります。
これらは敵や獲物の目をあざむく保護色となっています。
カニ同士で喧嘩したり、取り扱う方が危険を伴うため、
ハサミは出荷時には片方切り落とされて届きます。

CIMG0345.jpg
北海道から台湾まで分布し、波が穏やかな内湾の、水深30mほどまでの砂泥底に生息しています。
大きな敵が来ると泳ぎ去りますが、普段は砂にもぐって目だけを砂の上に出してじっとしていることが多いです。
海藻なども食べますが、食性は肉食性が強く、小魚、ゴカイ、貝類など、いろいろな小動物を捕食します。
いっぽう敵は沿岸性のサメやエイ、タコなどです。

2020044212.jpg

大型で美味なカニなので、古来より食用として多く漁獲されてきました。
現在では有名な産地が各地にあり、これらの地域では種苗放流も盛んです。
ただしガザミはカレイやヒラメ、タイなどの稚魚をよく捕食するので、
これらの種苗放流も並行して行われる地域では、お互いに子どもを食い合って競合することとなります。

CIMG0347.jpg
腹側はほとんど白色で、毛や模様はありません。
このお腹の形はメスです。

CIMG0348.jpg
開くとこんな感じ。
ガザミの産卵期は春から夏ですが、交尾期は夏から秋にかけてです。
交尾期になるとオスメスとも脱皮後に交尾を行い、メスは体内に精子を蓄えたまま深場に移って冬眠します。
冬眠から覚めたメスは晩春に産卵し、1mmたらずの小さな卵を腹脚にたくさん抱え、孵化するまで保護します。
孵化までには2,3週間ほどかかります。
ガザミ類は年2回産卵することが知られていますが、晩春に生まれた卵は通称「一番子」と呼ばれます。
一番子が発生して幼生を放出した後、メスは夏にもう一度「二番子」を産卵しますが、これは一番子より産卵数が少ないです。
孵化したゾエア幼生は1か月ほど海中を漂うプランクトン生活を送りますが、
この間に魚などに捕食されるので、生き残るのはごくわずかです。
ゾエア幼生は数回の脱皮でメガロパ幼生を経て、稚ガニとなります。
稚ガニは海岸のごく浅い所にもやって来るので、甲幅が3cmほどの個体なら砂浜や干潟の水たまりで姿を見ることができます。
一番子は急速に成長し、秋までに成体となって繁殖に加わりますが、
二番子がそうなるのは翌年です。
寿命は2,3年ほどです。

CIMG0349.jpg
甲羅の両端が物凄く尖っています。

CIMG0350.jpg
甲羅は横長の六角形をしていて、前縁にギザギザのとげが並び、左右に大きなとげが突き出しています。
鋏脚は頑丈で、たくさんのとげがあり、はさむ力も強いので、生体の扱いには注意が必要です。

2020043069.jpg
【ガザミとタイワンガザミの違い】について
ガザミの特徴は、鋏脚長節(ハサミのつけ根から真ん中の関節までの部分)にトゲが4本あるのに対して、
タイワンガザミの特徴は、トゲが3本です。
ガザミとタイワンガザミの見分け方はこれが一番わかりやすいです。
同じワタリガニ科のイシガニ類やベニツケガニ類は、
甲羅の左右に大きなとげが突き出しておらず、ガザミよりも小型で丸っこい体格をしています。

CIMG0351.jpg
第2脚から第4脚までは普通のカニと同じ脚をしていますが、
第5脚は脚の先が平たく変形した「遊泳脚」となっており、これを使って海中をすばやく泳ぐことができます。

2020044214.jpg

CIMG0355.jpg
かつては海産カニといえばガザミのことを指していたほど、一般に知られた食用ガニでした。
タラバガニなどの種類に比べればやや安価に出回っていますが、
味は美味であり、殻も比較的薄くて食べやすいです。

2020078632.jpg
ただし国内産の活きのガザミは、産地を問わず高値で取引されています。
特に30cmほどの体を持つ大型のものは高級品です。

2020078633.jpg

2020078634.jpg

2020078635.jpg

2020078636.jpg

2020078637.jpg

2020078638.jpg

2020078640.jpg

2020078641.jpg

2020078642.jpg

2020078643.jpg

2020078644.jpg

2020078647.jpg

2020078648.jpg

2020078649.jpg

漁期は晩春から初冬までですが、温暖な西日本では真冬でも漁獲されます。
メスの旬である秋から冬は、
蟹肉や中腸腺(カニミソ)はもちろん、メスの卵巣(内子)も食用にします。
特に、秋から冬にかけての卵巣を持ったメスは格段に美味です。
料理法も多彩で、塩茹で、蒸しガニ、味噌汁などで食べられます。

28793874fieu90.jpg
ガザミの味噌汁

ただし生きたまま個体を熱湯に入れると、苦しさのあまり自切して脚がバラバラにもげてしまいます。
そのためふつうは内側腹部にある急所を刺し、締めた後に茹でます。
水のうちから鍋に入れるか、輪ゴムや紐などで脚を縛ってから茹でる方法もあります。
現在は、水揚げ直後から、すでに輪ゴムを取り付けている所もあります。
他にも、韓国料理のチゲやケジャン、またパスタ料理の具材といった使い方も知られています。

00000IMG_00000_BURST20200403180855634_COVER.jpg
ガザミのトマトパスタ

CIMG0360.jpg
主な産地は内湾を抱える地域、たとえば有明海・瀬戸内海・大阪湾・伊勢湾・三河湾などがあります。
(かつては東京湾でもガザミは多く穫れ、また広く食されていました。)
こうした沿岸地域ではガザミを観光用食材として売り出している事も多いです。
例えば、有明海西部に属する佐賀県太良町周辺では「竹崎がに」として、
九州北東部の豊前海を有する北九州市、行橋市、豊前市等では「豊前本ガニ」としてブランド化されています。

2020040185.jpg
上記の写真の数々は『豊前本ガニ(ぶぜんほんがに)』です。
大阪府岸和田市では、だんじり祭の際にガザミ(当地では通常ワタリガニと呼ばれ、ガザミと呼ばれることはまずないです。)を食べる風習が残っています。
近年、乱獲により日本での漁獲高が減ったことから国産品は高級食材となりつつあります。
そのため、中国や韓国・東南アジア等からも輸入されています。

wieo44.jpg
こちらは以前、島根県の益田市でトビウオ漁に同船させていただいた際に
上手に海中を泳いでいたガザミの子供。
網ですくって、少しだけ観察して海に返しました。

wieo46.jpg
本当に可愛かったです。

wieo49.jpg

wieo51.jpg

CIMG1901.jpg
こちらは以前、東京湾で釣りをしていたら釣れた、ガザミの近縁の『タイワンガザミ』です。
こんなに手を広げて威嚇してきます。
背景に、東京湾岸の工場などが見えるので、ウルトラマンに登場する怪獣のように見えます。
【たいわんがざみ・タイワンガザミ・Portunus pelagicus】については、こちらからどうぞ。
http://www.sumeshiya.com/blog/2019/11/portunus-pelagicus.html

PXL_20210624_092240380.PORTRAIT.jpg
ワタリガニ(ガザミ)の豆板醤炒め

PXL_20210624_092245330.PORTRAIT.jpg