郷土寿司プロジェクト

2014.12.25

ハタハタ寿司

[秋田県]

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冬の日本海はグレーの世界だ。
11月末から12月にかけ、冬型の気圧配置によって時化が続くと
海水は大きく撹拌され、水温が低下する。
やがてとどろく雷を合図とするかのように、秋田県の沖合い深いところから
1.5mほどの浅瀬まで産卵に押し寄せるのがハタハタだ。
 
 
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魚偏に神と書いて鰰(ハタハタ)。
かつて著しく食糧が不足した東北の冬の入口、
大挙して到来するハタハタが、人々にとって恵みともいえる存在だったことが
この文字の由来といわれる。
腹にたっぷりとブリコ(卵)を持って接岸するこの時期のハタハタは、
地元秋田では「季節ハタハタ」と呼ばれている。
 
 
ハタハタの水揚げ地として知られる八峰町八森を訪ねた12月3日、
季節ハタハタはまだ到来していなかった。
しかし浜の人たちは、激しくしぶきを上げる大時化の海を前にして、
「もうそろそろか」「いやまだ早いだろう」
と、顔を合わせればハタハタ読みに余念がなかった。
テンションも心なしか高めだ。
この辺りではハタハタ漁の稼ぎによって冬を越す漁師も少なくないという。
八森で知り合った漁師、菊地博之さんと山本太志さんは
「ハタハタは祭りだ」と語った。
 
 
冷蔵冷凍技術発達以前、秋田の人々は
大量に水揚げされたハタハタを冬の貴重な食糧とすべく、
発酵の力を借りて多様な保存食に変えてきた。
八森と並ぶ水揚げ地、男鹿で出会った漁師の奥さんはこう話してくれた。
「頭とわたを落とした胴は、塩漬けにして保存して焼き魚、煮魚などにした。
頭も捨てずに塩漬けにして、しょっつる(魚醤)をつくった。
においがきついから、今はしょっつるをつくる人はほとんどいないけれども」。
 
 
ハタハタ寿司もまた、歴とした保存食だ。
塩漬けにしたハタハタを
飯、野菜、麹などとともに漬け込んで熟成させる寿司で、
石川県、富山県でつくられるかぶら寿司などと同じ「いずし」の一種にあたる。
独特の深い酸味は、酢によってつけられるのではなく
乳酸発酵によって醸し出される。
 
 
記録によれば、このハタハタ寿司は、
常陸国の佐竹氏が出羽国秋田へ移封される1602年より前から
つくられていたことがわかっているそうだ。
秋田の正月の食卓には欠かせない一品で、
そこに間に合わせるべく、初冬に仕込みが行われる。
 
 
12月3日、私たちは
しょっつるや干物などの水産加工品を製造する
八森漁業協同組合婦人部のグループ「ひより会」を訪問。
代表の岡本リセ子さん、藤田はるみさんに
ハタハタ寿司の仕込みを教えてもらった。
季節ハタハタ漁の皮切り前のこの時期、寿司の仕込みには、
沖合の底引き網漁で獲られたハタハタが使われる。

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ひより会のハタハタ寿司

<材料>
ハタハタ

ご飯

みりん
砂糖

しょうが
にんじん


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①ハタハタは頭を落として内臓を除く。
10%の塩水に漬けて重しをし、一晩おいてしっかり血抜きをする。

②漬け汁を捨て、5、6回水を替えながら水洗いしてから、
数時間水にさらす。

③水けをきり、酢に一晩つける。
ひより会で使っているのは「五倍酢」の名で売られている濃縮タイプの酢。
 
 
 
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④ざるに上げて十分に汁けをきる。
 
 
 
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⑤温かいご飯に酒、みりん、砂糖を混ぜ込み、冷ます。
 
 
 
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⑥漬け容器の底に笹の葉を敷き込み、⑤のご飯を薄く広げて入れる。
 

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⑦ご飯の上にハタハタをすき間なく並べ入れる。
 
 
 
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⑧ハタハタの上から手のひらでギュッと押さえてから、
ご飯を重ね、細切りにしたにんじん、しょうがを散らす。
 
 
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⑨再びハタハタをすき間なく並べて押さえ、
同様にしてご飯、野菜を重ねる。これを繰り返す。
 

 
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⑩最上段にはご飯を厚めに重ね、笹の葉で覆う。

⑪1日目は重しをせずに冷暗所におく。
2日目は軽めの重しをし、3日目からはしっかり重しをする。
(ハタハタ20kgの漬け込みに対して重し50kgが目安)

⑫途中、上がってきた漬け汁を適宜捨てながら、
身と骨の柔らかい沖合のハタハタであれば15〜16日間、
季節ハタハタであれば3週間ほど漬け込む。

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ハタハタ寿司をはじめ、
北海道から北陸にかけての日本海側各地でつくり継がれてきた
「いずし」の特徴は、
野菜をともに漬け込む点のほか、
発酵を促進する材料として麹が使われる点にあるとされている。
しかし、ひより会のハタハタ寿司には麹が加えられない。
麹の代わりにご飯に混ぜ込む酒が、発酵を促進する役割を果たしている。
秋田県内でも地域により、また家庭により、
材料の配合も漬け込み方もさまざまなようだ。
県南部には、より甘みが強く、
熟成に日数をかけるハタハタ寿司も見られると聞く。
 

漬け上がった寿司は、熟成が進んで骨もすっかり溶けている。
つまり骨まで丸ごと食べることのできる、非常に栄養価の高い寿司でもある。
地元の人たちは、まずは正月の定番の一品として味わうと、
日々のおかずとして、酒の肴として、少しずつ食べ進める。
しょうゆを少しつけて食べるとうまいとの声もある。
熟成がさらに進み、酸味が強くなってきたころには、
焼いて食べるとさらにおいしいとも聞く。
 

滋味あふれるハタハタ寿司は、
12月末より、酢飯屋のコース料理にもお目見えする予定だ。
 
 
 
 
(取材・文/保田さえ子)
 
 
 
 
※参考文献:杉山秀樹著『クニマス・ハタハタ 秋田の魚100』
日比野光敏著『すしの事典』、『聞き書 秋田の食事』
 
 
ハタハタ(鰰、鱩、雷魚、燭魚)
別名カミナリウオ、シロハタ
英名:Sailfin sandfish
スズキ目ワニギス亜目ハタハタ科に属
日本では主に日本海側で食用にされ、秋田県の県魚。
しょっつると呼ぶ魚醤にも加工される。
魚卵はブリコと呼ばれる。

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激しい雷(ハタタ神)が鳴り雪が降ると
水温が下がり、産卵のために接岸する。
卵は冬を越して、春から稚魚が生まれる。
冬を越すために、卵の皮が厚め。

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【はたはた・ハタハタ・鰰・鱩】の写真集はこちらからどうぞ。
http://www.sumeshiya.com/blog/2014/12/post-27.html