郷土寿司プロジェクト / 山口県宇部市一覧

2013.08.19

ゆうれい寿司

[山口県宇部市]

瀬戸内海に面した山口県宇部市の北端に位置する、山あいの吉部(きべ)地区。
元は厚狭(あさ)郡楠町(くすのきちょう)の一地区でしたが、
2004年に楠町が宇部市に編入され、現在に至ります。
  
この地域に伝わる郷土料理のひとつが、
江戸時代中ごろからつくられてきたとされる「ゆうれい寿司」。
2013年7月、郷土寿司研究中の岡田大介がこの吉部を訪れたのは、
何よりそのキャッチーな名に惹かれたから!
どれほどに「ゆうれい」なのかを現地で体験し、学んできました。
 
たずねたのは、1973年の結成以来、農山村活性のための活動、
地域の生活文化の継承活動などを行なってきた、
「楠地区生活改善実行グループ連絡協議会」のお母さまがた。
ゆうれい寿司づくりもこの会の活動の一環で、
販売用の寿司制作のほか、次世代に伝えていく役割をも担っています。

yuurei1.jpg

お世話になった、楠地区生活改善実行グループ連絡協議会の皆さん。


そもそも、ゆうれい寿司とは、
具を混ぜたり、のせたりせずに真っ白の酢飯のみでつくる、
いわば、のっぺらぼうの角形の押し寿司なのだそう。
 
押し寿司自体は、県内のいくつかの地域で郷土食としてつくられており、
よく知られているところでは、
四段、五段と重ねて表面に色とりどりの具を散らした、
豪華な「岩国寿司」があります。
また宇部市や、吉部地区と隣接する美祢市などには
「三寸角寿司」と呼ばれる郷土寿司があり、
これは、にんじん、しいたけなどを煮た具を、
酢飯に混ぜ込む形態の押し寿司のようです。(※1)

ゆうれい寿司は、それらと比較すると、
白い酢飯のみというシンプルな仕立てにおいて特異な存在。
この特色に関しては、
今も棚田の景観の美しい吉部地区が
古くから込めた大変美味しく、良質なお米が穫れる産地であったことから、
特に具を入れなくても美味しい『白寿司』が盆や祭りの際につくられてきた......
といわれています。
酢飯のみ。
上に木の芽や柚子皮を飾ったりする程度の、本当に酢飯だけの寿司。
それが元々のゆうれい寿司の正体です。

yuurei2.jpg

吉部地区の米農家、石田さんに案内してもらった7月の棚田。

現在、この会がつくっているゆうれい寿司は
現代風にアレンジされた具入りの押し寿司ではありますが、
「表面は真っ白な酢飯」
という特色は、変わらず継承されています。
以下、岡田大介も体験した、そのゆうれい寿司のレシピをレポートします!


-----

yuurei3.jpg

これは、山口県ではなじみの深い白身魚、
「エソやハモ」のすり身を酒煎りしたもの。
酢、砂糖、塩を合わせた寿司酢にこれを加えてひと煮立ちさせます。

yuurei4.jpg

これは酢飯に混ぜ込むかやく。
ごぼう、にんじん、油揚げ、山菜(わらび、ぜんまいなど)、
もどした干ししいたけなどを、
砂糖、しょうゆ、酒、みりんで煮ます。
干ししいたけは、このかやくとは別に、ちらす具材としても準備。
もどして薄く切り、砂糖、しょうゆ、酒で甘辛く煮ておきます。

yuurei5.jpg

押し寿司用の木型に敷き込んだり、
寿司の段の間に挟んだりするのに使うのは芭蕉の葉。
手に入らないときは、葉らんで代用するそう。

yuurei6.jpg

だし昆布を加えて炊いたご飯に、
準備したエソ入りの寿司酢を回しかけ、混ぜ込んで酢飯をつくります。
このようにエソのすり身を混ぜ込んだ寿司は、
宇部市と同様に瀬戸内海に面する防府市辺りでも
古くからつくられていたようです。(※2)

yuurei7.jpg
酢飯のうち2/5量はそのまま白寿司に。
残り3/5量には、準備したかやくを混ぜ込みます。

yuurei8.jpg
 
yuurei9.jpg

型にかやく入りの酢飯を詰め、
全体をギュッと押さえます。

yuurei10.jpg

yuurei11.jpg

しっかり押さえたかやく入りの酢飯の上に、
煮たしいたけ、錦糸卵、でんぶを散らし、
その上に、かやくを混ぜていない白寿司を重ね、押さえます。
これで一段分が完成。
表面は真っ白に仕上がります。
芭蕉の葉を仕切りとして挟みながら、
同様に二段、三段と層状に重ねては、押さえます。

yuurei12.jpg

すべて重ねたら、表面を芭蕉の葉で覆って上蓋をのせ、
重しをしてしばらくおき、なじませます。

yuurei13.jpg

重しを取り、型の外枠を外したところ。

yuurei14.jpg

目印に楊枝をさし、切り分けます。

yuurei15.jpg

ゆうれいといえば、柳。
細く切ったきゅうりの皮を柳の葉に見立てて飾り、完成です。
季節によって山椒の葉、青じそなどを飾ることもあるそう。

yuurei16.jpg

お吸いもの、漬けもの、昆布の煮つけとともにいただきました。
やや甘めの酢飯の中に、エソのうまみがじんわりと感じられる、
素朴で、懐かしいおいしさのお寿司でした。
ごちそうさまでした。


----

ところで、「ゆうれい寿司」という印象的なこの名は、
決して宣伝的につけられた名称ということではなさそう。
「うちのおばあさんは、わたしが小さいころから、
『きょうは、ゆうれいつくろうか』なんて言って、
よくつくってくれていましたよ」
と、今回調理をしてくれたお母さんの一人が語っていたように、
吉部の人々に、ごく日常的に用いられてきた名のようです。

また、具を加えない真っ白な押し寿司という、
ゆうれい寿司の本来の特色は、
この会の皆さんの幼少時代には健在だったそう。
酢飯には、冬は柚子のしぼり汁、
夏場は、この地域で「香橙(こうとう)」と呼ばれる、
青柚子のしぼり汁が使われたといいます。
「具を入れずにつくって、上に山椒の葉などをのせていました。
酢締めの魚をのせたこともありましたね。
昔は、この辺りでは鮮魚は手に入らなくて、
仙崎(日本海に面する、現在の山口県長門市の一地域)の方から
干物、塩さば、塩くじらなどを三輪車にのせて
行商に来ている人がいたんです。
その塩さばを酢で締めて、のせたりしていました」

このように吉部の人々の暮らしの中で生き続けてきたゆうれい寿司は、
吉部八幡宮の伝統的な秋祭り「芋煮え祭り」の日には、
芋煮え(里芋の煮しめ)・なますと並び、
定番のハレ料理の一つとして人々に親しまれているそう。
一方で、合併前の旧宇部市エリアの人々にたずねてみると、
ゆうれい寿司の存在は、驚くほど、ほぼ知られていなかったのもまた事実。
限られた地域でひっそりとつくり継がれてきた、
まさにソウルフードのお寿司です。

(取材・文/保田さえ子)

(※1)参考資料:『やまぐち味ばなし』貞永美紗子著
        やまぐち農林水産ネット

(※2)参考資料:『防長 味の春夏秋冬』貞永美紗子著
 

2016.4 銀座三越 食の瀬戸内フェアにて
宇部かまさんの削り蒲鉾を盛り付けた
新しいゆうれい寿司を販売。

mmmimg_item05.jpg

IMG_2377.jpg

yureIMG_8547.jpg
宇部市 石田さんのお米『ヒノヒカリ』


2015.2 ゆうれい寿司 渋谷ヒカリエ バージョンUBEビエンナーレ

yureIMG_1006.jpg
宇部蒲鉾(白)を刻んで酢飯に混ぜ込みます。

yureIMG_1007.jpg
クリームチーズとハモのすり身を酢飯に混ぜ込みます。

yureIMG_1010.jpg

yureIMG_1014.jpg
一口大に切れ目をつけておきます。
真っ白なのに美味い寿司。
それがゆうれい寿司。

yureIMG_1015.jpg

yureIMG_1019.jpg

yureIMG_1020.jpg

yureIMG_1021.jpg

yureIMG_1022.jpg

yureIMG_1023.jpg

yureIMG_1024.jpg

yureIMG_1025.jpg

yureIMG_1026.jpg

yureIMG_1027.jpg

yureIMG_1028.jpg

yureIMG_1029.jpg

yureIMG_1032.jpg