郷土寿司プロジェクト

田舎ずし(いなかずし)

[高知県津野町]

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寿司大国 高知県には
土佐寿司と呼ばれる多くの種類のお寿司があります。
このお寿司もその一つ。
『田舎寿司(いなかずし)』や『土佐田舎寿司(とさいなかずし)』と呼ばれています。
The sushi power of Kochi Prefecture.
There are many types of sushi called Tosa Sushi.
This sushi is one of them.
It is called 『Inakazushi』 or 『Tosa Inakazushi』.

その昔、海苔や昆布が手に入りにくかった頃、山のものを使ってお寿司を作りました。
決めては『ゆの酢(ユズの果汁)』。
素朴でかわいらしく、『ゆの酢』の効いたさわやかな味わいは、
子供からお年寄りまで幅広く、多くの人に愛されています。
In the past , when it was hard to obtain nori(seaweed) and komubu (kelp),
sushi was made using ingredients from the mountains.
The key was 『yunosu(Fruit juice from yuzu)』.
The simple , charming , and refreshing tastes of seasoning with yunosu are still beloved by many people ,
ranging in age from children to the elderly.

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高知県津野町葉山。
新荘川(しんじょうがわ)に注ぐ谷川沿いに石垣の棚田が広がっています。

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今回は、ここで田舎寿司(いなかずし)を教えていただくために、
久保川地区の笹岡三栄(ささおかさえ)さんにお会いしてきました。

『昔(明治生まれ)は、男が料理をしたもんで、近所で冠婚葬祭があると言うたら、父が帆前垂れ(ほまえだれ)という厚い前掛けに包丁を2本包んで、庭のハランを採って行ったよ。』
祝い事も法事も神祭も、家でするのが当たり前。
200〜300人ほどの集落に4,5人、『器用やり』と呼ばれる男性の料理人が指揮を執り、
近所の人たちが手伝いました。
氏神様の神祭の後は、皿鉢を囲んで酒を飲み、また各家でも皿鉢を準備し、『おきゃく(宴会)』三昧。
地区の男性たちは家々を飲み歩き、子供たちはお土産のすしを楽しみに待っていたそうです。
『私は二十歳ばぁからぎっちりついて行って、てごしよったき(お手伝いをしたから)、おすしはひとりでに覚えた。』
白板昆布(しらいたこんぶ)のすしに、海苔の巻きずし、いなりずし。
魚の姿ずしは定番のサバに、その時期に出回る魚を使い、婚礼などのお祝いにはアマダイを使う。
冬は石垣の間に植えた高知では大菜(おおな)と呼ばれる高菜を海苔の代わりに巻き寿司に、
時には、りぐって(凝って)海苔と玉子の二重巻きに。
食材が思うように手に入らない時も、山にあるものを上手に活かしてごちそうを作る、
その術を父の傍らで学んだそうです。

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高度経済成長期に入り、海の幸などの材料が手に入り出し、農村の作物は多様化し、
外に働きに出る人も増えるとだんだん作られなくなり、すたれていきました。。
久保川地区に女性の生活改善グループが発足し、
三栄さんは衛生活動や、味噌やフキの佃煮など加工品作りに励みました。そして昭和40年頃から、
次第に地域の料理は男性から女性たちの手へと移っていきました。
三栄さんは落成式や敬老会に皿鉢料理やおすしを頼まれるようになり、
近所の女性と2人で100枚の皿鉢を作ったこともあったそうです。

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工夫を凝らす料理人の心意気を引き継ぎ、季節の味や山の幸を取り入れ、皿の上を彩る。
『おきゃく』の席にごちそうを出すと、『うわぁ!』『まっこと、えいねぇ(本当にいいね)!』。
感嘆の声に心は満たされ、『次は何をやっちゃろう?』と意欲が沸いたそうです。

1986年、米の消費拡大を狙った事業、『全国ふるさと おにぎり百選』に応募してみないかと誘われた三栄さん。
『なんにしようねぇ』『うちらは、すしより他ないねぇ。』
三栄さんは、近所の女性たちと一緒に出品する『すし』を考えました。

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段々畑で作った自慢のコガネニシキを炊き、
穀物酢と塩と砂糖で味をつけ、ゆの酢(ユズの絞り汁)を効かし、
刻みショウガとゴマでアクセントをつける。
山間部では定番の
こんにゃく寿司

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こんにゃくは三角に切って、中が袋になるように切目を入れ、甘辛く煮る。

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シイタケ寿司
甘辛く煮ておいたもの。

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地味になりがちな山のすしを華やかにしようと、
酢漬けにしたミョウガの赤で彩ります。

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タケノコ寿司
タケノコは、塩抜きしてうす味を付けておく。
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『青も欲しいねぇ』と大菜の巻きずし。

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大菜は一年中あるものでは無いので、
リュウキュウの甘酢漬けを軽く絞った押し寿司も。
緑が目に爽やかで、口にするとシャキッとした歯ごたえも楽しく、評判は上々。

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リュウキュウとは、ハスイモの茎の部分で、
煮しめや酢の物としても普段の食卓に並ぶほど高知の人にとっては馴染みのある食材です。

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家の脇や畑などに生えていて、7月から11月まで茎を伸ばし、大きな葉をつけます。
台風が何度来ても倒れない、丈夫な野菜。

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リュウキュウは皮を剥いて20cmくらいの長さに切り、
縦に切目を入れ、塩を振ってしんなりさせてから甘酢に漬けます。
塩漬けにして、冷凍しておけば、食感も損なわず1年中食べられます。
山間部では貴重な繊維質となります。
ただし、皮を剥くときに、山芋のように手が痒くなるので注意が必要です。

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田舎ずしでは、塩を振ってしんなりさせたリュウキュウを巻き簾の上にのせ、
酢飯を敷き、巻き簾で巻き固めます。
いわゆる棒寿司系の作り方です。

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酢飯はほんのりとユズの香りがします。
高知名産のゆず酢を使い、そこに刻み生姜と白ごまを混ぜています。

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リュウキュウ寿司の幅は約2cm。

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ヒノキでこしらえた特製のもろぶたに並べて、
四季の花やショウガの酢漬けをバラに見立て添える。

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ミョウガは塩抜きして、甘酢に漬けたもの。

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三栄さんが、古くから山にあるおすしを集めて再構成する様は、まるで編集者です。
『なんかえい名前をつけや』。

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出品するためには名前が必要です。
『困ったねぇ、山のもんばっかりで作るおすしやき(おすしだし)』と、
なにげなく『田舎ずし』とした。
あれよあれよという間に入選し、高知県選抜として東京へ作りに行った様子がニュースで流れました。
県内のイベントでパック売りをすると、『海を渡った田舎ずし』と紹介され大ヒット。
三栄さんたちは田舎ずしをレシピにまとめ、配布しました。
すると翌年には、県内各地で次から次へと田舎ずしが現れました。
以前から作られていたものの、地味さゆえ、陰に隠れていた山菜のおすしは、
編集され、名付けられ、広く紹介されたことで、
瞬く間に高知名物となり定着しました。

『ごちそうと言えば、おすし。考えるのも作るのも手っ取り早い』。
その後も三栄さんたちは、様々なおすしを考案してきました。
1991年
桃の節句には、お内裏様に三人官女などを玉ずしで表現し、
いなりや玉子、リュウキュウ、ミョウガと、あらゆるお寿司を盛り、
山茶花(さざんか)や菱餅までお寿司で作った『すし爛漫』を創作しました。
巨木な木の器に盛り付けられ、使ったお米は一升ほど。
『盛り付けは、第一に色目よね。同じ色が重ならんように、梅の花と枝に出たばっかりのフキノトウ。初夏は菖蒲(しょうぶ)、秋は菊、冬は山茶花。ビニールのハランは嫌いでねえ。』
家の庭にハランが植わっているのは、料理上手の証し。
皿鉢やおすしには、必ず季節の草花とハランを添えます。
先人に習ったものをベースに、新しい考えや感覚を取り入れ、おすしは進化する。
まさに器をキャンバスに、自由に思いを表現する。
料理とおもてなしが上手な三栄さん。
春は茶を摘んで手揉みした新茶を楽しみ、
夏は山から竹を切ってきて流しそうめん。
自家製の小麦と空豆餡(そらまめあん)でおまんじゅうをこしらえ、
たくさんの人が遊びにやってくる。
桜はもちろん、菖蒲、紫陽花(あじさい)、藤の季節にもお花見を楽しむ。
『食べ物でなんでも、お金をかけるより手間をかけて工夫する。自分で作ったら気持ちがいいし、美味しいと言うてくれたら、うんと嬉しい』。

その後も、三栄さんたちは、
平成2年 ロサンゼルスで開催された『高知特産農産物フェア』に参加
平成7年 船橋の西武デパートでの『田舎博覧会』にも参加
平成7年 山下真二の『くいしんぼう万歳』取材来訪
平成14年 マンガ『美味しんぼ高知編』に掲載
平成17年 『土佐郷土料理伝承人』の認定を受ける
平成21年 NHK 四国スマイル・ゆうどきネットワークに出演
と活躍を広げていきます。

器用料理人から地域の味を受け継いだ女性たち。
次第に過疎化し担い手が減り、女性たちが地域でごちそうを作る機会が減ると、仕出し屋さんが肩代わりするようになっていきました。
しかし今、その仕出し屋さんも冠婚葬祭が小規模化し、外食志向も高まり、出番は少なくなっています。
高知市仁井田で仕出し屋『大高坂(おおたかさか)』を営む大高坂房士(のぶひと)さん。
県外の大学を卒業し、24歳で高知に帰って家業を手伝い始めました。
まず任されたのは料理の準備や皿洗い、冠婚葬祭や宴会の皿鉢料理の配達や皿鉢の回収。
お客さんの家に顔を出すうちに気心が通じ、料理の感想や要望を受けるようになったそうです。
ある日、県外から親戚が集まるお盆に「高知らしい料理をふるまいたい」と注文が入りました。
どうしたものかと考えた時、父の勇さんが目をつけたのがすしだったそうです。
通常の組み物に入る海苔巻きや玉子巻きは日本中どこでも食べられる普遍的なもの。
ちょうどその頃、近所の農家に頼まれて父がミョウガのすしを商品化していて、
変わり種のすしで田舎風な盛り合わせを作ってみようと考えたそうです。
山間部出身の女性に助言をもらって作ったタケノコのすしを皮切りに、
地場のリュウキュウやシイタケのすし、焼きサバずしも加えて盛り合わせました。
さらに「葉っぱ一枚で印象が変わる。田舎という名前なら、青いモミジ、赤く色づいた柿の葉、自然界のものを一緒に添えよう。遊び心が大事」。
父は庭の草木を採ってきて、大胆なあしらいを施しました。
懐かしさと新鮮さが受け、「田舎寿司」は店の定番メニューに加わりました。
房士さんは調理専門学校で基本を学び、
店で魚の処理や、すし酢の配合を担いながら、父から料理を習いました。
「地味で消えつつあった田舎寿司は、自分たち馴染みの薄い若い世代にはインパクトが大きかった。父のやってきたことを引き継いで、若い人にも好まれるように進化させたい」。
房士さんは思いをめぐらしています。
人びとが考案し、編集し、プロデュースされてきた田舎ずし。
料理をする人が多彩なアイデアを加えて表現でき、
姿を変える自由があるからこそ、時代が変わっても喜ばれ、愛され続ける所以です。

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一番上の段は
『こんにゃく寿司』です。
甘く煮たこんにゃくの中央に切り目を入れ、そこに酢飯を詰めたもの。
自家製のこんにゃくで作るご家庭もあります。
『KONNYAKU SUSHI』
For Konnyaku Sushi,a slice is made into the center of sweetly stewed konjac and the stuffed with sushi rice.
Some homes prepare this dish using their own homemade konnyaku ( konjac gelatin).

二段目は
リュウキュウ寿司』です。
シャキシャキした食感と鮮やかな黄緑色が特徴の押し寿司です。
リュウキュウとはハスイモのことで、芋から育ちますが、食べるのは茎の方です。
高知県ではよく食べられる食材で、大きいものでは人の背丈も超えるものもあります。
RYUKYU SUSHI』
Ryukyu is a term from the Indian Taro.
This sushi is pressed with to a crunchy texture and a vivid-green color.
The plant grows as a tube but the stalk is the only edible part.
Within Kochi,this is a popular dish to eat.
Not to mention ,that the plant's height can exceed that of a person.


三段目の左は
『ミョウガ寿司』です。
主に薬味として使われることが多いミョウガをネタにしたお寿司です。
ほんのりと薄紅色に育てる栽培技術は高知県独自のものです。
『MYOGA SUSHI』
Myouga Sushi is made with myoga -(Japanese ginger) ,an ingredient used primarily as a seasoning.
Cultivation techniques from raising myoga with a faint reddish color are specifically unique to the prefecture of Kochi.


三段目の右は
『タケノコ寿司』です。
タケノコは、巻き寿司、握り寿司、詰め寿司と、地域や家庭、お店によって形は様々です。
『TAKENOKO SUSHI』
Takenoko (bamboo shoots) are used in various forms depending in the locality,household,
and restaurant such as , but not limited to , makisushi,nigiri sushi , and tsumesushi (stuffed sushi ) .


四段目の左は
『大菜(おおな)寿司』です。
大菜とは、高菜のこと。下茹でして、酢飯を巻いて巻き寿司に。
『OONA SUSHI』
It is boiled OONA(leafy vegetables) and sushi wrapped in vinegared rice.


四段目の右は
『シイタケ寿司』です。
甘く煮たシイタケをネタにしたお寿司です。
丸いシルエットが可愛く女性にも人気です。
『SHIITAKE SUSHI』
Shiitake Sushi is prepared using sweetly stewed shiitake mushrooms.
The round silhouette of the mushroom itself is cute and popular among women.


写真にはありませんが、
『イタドリ寿司』というものもあります。
高知で愛される春の山菜を使った握り寿司です。
イタドリは日本中に自生していますが、お寿司などにして食べるのは珍しいです。
シャキシャキとした食感で炒めても美味しいです。
『ITADORI SUSHI』
Nigiri is hand-formed sushi using wild spring vegetables.
Which ,are adored in Kochi.
Within Japan, Itadori (Japanese knotweed) grows wild but is rarely eaten in the form of sushi or other dishes.
It has a crunchy texture and is delicious when stir-fried.

わらびや、白菜などでも作るそうです。

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『お寿司って自由でいいんだ。』と僕がこれまでで一番感じたお寿司が
この田舎寿司でした。

さて、今度は僕がそれを再構築。

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著書の『季節のおうち寿司』でご紹介させていただいたのがこちらのお寿司、
寿司花壇(すしかだん)』です。
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