郷土寿司プロジェクト

角寿司(かくずし)

[島根県大田市]

岡田大介が、縁あって足しげく訪れている島根県大田(おおだ)市には、
古くからつくり継がれてきた郷土寿司、「箱寿司」があります。
「角寿司」とも呼ばれるこのお寿司は、
1升、2升などの角形の木箱に
酢飯、甘辛く煮た具(にんじん、しいたけ、れんこん、かんぴょうなど)、錦糸卵を、
薄い板を挟みながら数段積み重ねて押し、切り分けたもの。
スーパーの惣菜売り場などにも当たり前のように並んでいることから、
大田では、ごくなじみ深い存在と見受けられます。


同様に酢飯、具を箱に重ね、押してつくる寿司は全国各地に点在していますが、
大田の箱寿司の特徴は、酢飯と酢飯の間に具を挟むところ、
そして、具に魚介類を用いない、素朴な仕立てにあるようです。
ちなみに大田では、箱寿司をつくることを"漬ける"というそう。

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箱寿司を漬ける箱。
今回の訪問でお世話になった市役所の方が、ご自宅から持参してくださいました。
使い込まれて、いい味出ています。


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道の駅「ロード銀山」の箱寿司。
ここのレストランの定食でもいただけるそうです。


2012年10月、郷土寿司プロジェクトの大田市訪問の目的の一つが、
大田の人々にとって、箱寿司がどのような存在なのかを知ることでした。
行く先々で箱寿司談義を重ねたところ、わかったのは......


・ 箱寿司は、寿司屋の寿司ではなく、家庭でつくり継がれてきた寿司だということ。
・主に祭り、盆、正月などにつくられる祝い料理だということ。
・日本海の海の幸に恵まれた大田市ではあるけれど、
 基本的に、箱寿司の具に魚介は入らないということ。
 漁港で働いていたお母さんたちも、「魚は使わないねえ」と。
・大田の人々の多くが、箱寿司を大好きだということ。
・ただし、現役世代(20〜40代)の多くの主婦たちにとって、
 箱寿司は「実家の懐かしいお寿司」だということ。
 実家には箱があるけれど、自分ではつくらない......との声が多々あり。


「若い人たちは箱寿司をつくらない」
この傾向は、顕著でした。
そして、やり取りの中から、なぜつくられなくなったのかが見えてきました。
まず、酢飯をつくり、具材を細かく刻んで煮て、錦糸卵をつくり、
箱に重ね......と手間ひまのかかる料理だということ。
もう一点は、一度にたくさんできちゃうということ!
ここ大田でも、昔のような大家族が少なくなっている上に、
たっぷりつくった料理を親戚、隣り近所などに配る、
いわゆる「お裾分け」の風習がめっきり見られなくなっているといいます。
少々、さびしい話ではあるのですが、
確かに3人、4人の家庭で1升の寿司はつくらないだろうなあ、と納得も。


そこで、この箱寿司を
家庭でもっと気軽に、楽しんでつくってもらえないものか? と岡田大介は考えた。
次回記事では、大田市の食育ボランティアの方々に岡田大介が提案させていただいた、
新しい箱寿司についてお伝えします!
 
 
 大田の郷土寿司「箱寿司」を自らつくってみた岡田大介が感じたのは、
一般の家庭では、1升や2升の箱寿司、いわば巨大な寿司のミルフィーユを
「切り分ける」作業が非常にやっかいだろう、ということでした。
加えて、地元で愛されてきた箱寿司が
若い世代の間でつくられなくなりつつある......という現状を知ったのは、
前回記事で触れたとおり。
手間がかかる上、少人数家族で食べ切るには量が多すぎる辺りに、
その理由がありそうだと、おおよその予測も立ちました。
 
 
そこで考えたのは、大田の若手世代、現役子育て世代の間に
箱寿司づくりの風習がよみがえるよう、
箱寿司を、より手軽で、遊び心のあるものにできないかということ。
2012年10月、大田市役所主催の食育イベントにおいて、
その提案をさせていただくことになった次第です。
 
 
提案の具体的な内容は......
箱寿司の箱の中に、仕切りをつくってしまおうと!
 
 
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仕切りは、100円ショップなどでも売られている
薄べったいプラスチック製まな板を短冊状に切り、組んだもの。
切り込みを入れ、切り込みと切り込みを噛み合わせることで枠にしています。
これを箱の中に立てて枠に酢飯を詰め、上から軽く押して四角く成形。
その上に具、酢飯を重ね、また軽く押し(具がサンドされる格好)、トッピング。
これで1段目の完成です。
 
 
 
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板を1枚挟み、その上に、同様にして2段目を仕込みます
(酢飯を押すのに使っているのは、ところてん突き棒!)。
仕上げのトッピングでは、俄然、絵心に火がつきます。
 
 
 
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2段分を仕込んだら、いよいよお披露目。
箱の外枠を慎重に引き上げて外し、
2段に分け、プラスチック板の仕切りをそっと引き抜けば、
色とりどり、味もとりどりの箱寿司の完成です。
箱を取り囲んだ人の輪から「おお」と声が上がり、
岡田大介ほくほく。
 
 
 
このように、箱寿司に仕切りをつくったわけ。
一つは、巨大な寿司を包丁で切り分けるという、
テクニックを要する作業を簡略化するためでした。
 
 
もう一つは、仕切りの高さがある分、
トッピングが直に押されず表面が美しく仕上がるということ。
 
 
そして何よりの理由は、
酢飯、具、トッピングの組み合わせの妙を、
仕切られた枠ごとに楽しんでもらえること!
これは、飽きません。
 
 
この日は、酢飯だけで3種類を用意していました。
ベーシックな酢飯をつくって3等分し、そのうち2つに

・大田の名産品、のどぐろの干物を焼いてほぐしたもの
・大田の郷土料理「へか焼き(魚介のすき焼き)」の残りの具を細かく刻んだもの

を混ぜ込んだのです。
一方、具やトッピングの材料として取りそろえたのは......
 
 
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・きゅうり
・れんこん(酢を加えてゆでたもの)
・青じそ
・梅肉
・いか(ゆでてから、しょうゆ味で煮たもの)
・いかの塩辛
・かまぼこ
・錦糸卵
・ごま
・焼きのり
 
 
など、いずれも家庭に買いおきされていそうなラインアップ。
これらを、酢飯との相性、食感や色の取り合わせを工夫しながら
好き好きに枠に詰めていきます。
これなら、子どもたちも遊び感覚で手伝ってくれそうですし、
おもてなしのごはん会なら、ああだこうだと言いながら、
皆に仕込みに加わってもらうのが手。
枠に番号をふり、自分がどの味に当たるかはくじ引き後のお楽しみ......
なんていうパーティー感覚の演出も可能です。
 
 
箱寿司本来のダイナミックさを生かしつつ、
飽きさせない変化、にぎやかなイベント要素を加味した岡田箱寿司。
この日、参加された大田市民の方々からは、
「うちでもつくってみたい」
「大田は山菜がよく採れるから、甘辛く煮て具にするのはどう?」
などなど、関心の声を寄せていただくことができました。
ありがとうございました。
 
 
実家の箱寿司から離れて久しい大田の若手世代が、
「うちでもつくってみようか」
と思い立つような、一つのきっかけとなればと願っています。
 
 
そして......
箱寿司の箱を、ぜひ嫁入り道具、婿入り道具に!
使い込むほど味を増していく箱は、かっこいいです。
 

前回の記事内でご紹介した、
箱寿司を小さく、具のバリエーション豊かにつくるための
手づくり仕切り板。
 
 
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今回は、そのつくり方を簡単にご紹介します。


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1. 材料は、100円ショップなどで売られている
 プラスチック製の薄いまな板。
 型の長い辺に足りるサイズのものを用意してください。
 
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2. まず型のサイズを測り、
 型の中を5〜6cm四方に小分けにすることを目安に、
 仕切り板をつくります。
 ここでは、縦4等分、横5等分にするために
 縦の仕切り板3枚、横の仕切り板4枚をつくりました。
 (つまり型の中を20等分にします。)
 
 
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3. 縦、横の仕切り板を組み合わせるために、
 写真のように、それぞれの板の幅半分のところまで
 等間隔に切り込みを入れます。
 
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4. 写真のように、縦、横の仕切り板の切り込みを
 噛み合わせるようにして組み立てます。
 
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5. すべての板を組み立てれば出来上がり。
 型の中にセットして使います。
 
 

 
このように、工作感覚で手軽につくれる仕切り板。
箱寿司の型を買おうかどうか迷っている大田の方々や、
型を持っていながら、宝の持ちぐされにしている方々に、
この仕切り板を小道具として役立てていただき、
箱寿司の楽しさ、おいしさをより膨らませていただければうれしい限りです。


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ところで、この小分けスタイルの大田箱寿司を
店やケータリングでもつくっていきたいと考えた岡田大介。
知人に頼み込み、木製の仕切り板まであつらえてしまいました!
構造は、上の手づくりの仕切り板とまったく一緒。
 
 
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お披露目をどうぞお楽しみに。