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短編 実話小説 【人生で大事な決断の一つ】

[岡田イズム記録]

それはある日の喫茶店。
僕は一人、黙々とパソコンで事務作業をカタカタしていると
隣りのテーブルに若いカップルが二人座った。
大柄で口調もやや強めだけど、気の利く会社員の男。
10代の頃はちょっとヤンチャしてたけど今は社会に揉まれて普通に一般企業に勤める女。

会話からその人間を察する能力は
寿司屋をやっていれば自然と身についてくるもの。
と同時に頭の中には二人の私生活が丸裸にされていく。
僕は仕事に集中しながら
この、子供の頃から大きな耳をさらに大きく広げて
彼らの私生活を細かく頭の中で整理していく。
仕事に集中できないのでは?
という質問に先にお答えしておくと、
仕事には全くと言っていいほど支障がない。
寿司を握りながら、
お客様観察をして、
向こうのお客様の会話を聞きながら、
目の前のお客様とお話して
若手に指示を出しながら、
さらに向こうのテーブルのお客様に次にオススメする日本酒を考え
お鍋の汁物の火加減を気にしつつ、
まな板で切っているこの味ののってきたサバを明日どう使うかを判断している。
そんな仕事を毎日している寿司職人からすれば
完全にZOZOっている。
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※ZOZOっている,ZOZOる
意味:宇宙から見ればそんなもの大した問題ではないこと、またはそのように考えること
(近いうち日常的に使われるようになると思います。)
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話を戻す
隣りのテーブルの会話を聞きながら違うことに集中することは
通常の自分なら容易にできること。
が、今回はパソコンの手が止まってしまった。

気になる会話がなされたからである。

どうやら新婚のこの二人は
次に行く旅行先を島根に決めた。
宿泊予約、交通系は彼が担当し、
ごはんや、温泉は彼女が担当するのだという。
そのあたりはどうでもいいので聞き流していると
話は、旅行話から結婚後のお財布についての話に。
お互いの給与はそれぞれの財布で管理するのか?
それとも一緒にしてどちらかが管理する体制にするのか?
話は彼女のペースで進んでいく。
自分のお父さんは、お金のことはお母さんに全て任せていたこと、
週末はお父さんが必ず料理を担当しお母さんを休ませていたこと、
お父さんは自分のお小遣いの中から私に誕生日プレゼントを買ってくれたこと、
お父さんの素晴らしさを巧みに組み込んだ戦略的攻め会話。
もしそのような体制にするなら、私、簿記の資格とろうかな?
さらに攻めの会話をかぶせ続けていくと。。
彼が一言、
でも月10くらいは自由に使えるお金とか欲しいなー。
するとすかさず彼女は言う。
ぜんぜんいいよ。
その代わり全部領収書もってきてね。
彼はすでのこの時点で早くも王手を迫られている。
あ、10万とかじゃなくても5万とかでもいいかな。
ぜんぜんいいよいいよ、領収書は忘れないでね!
彼はあっさり、王様を取られていた。
彼女はそのまま畳み掛けた。
ということで、お財布は私が管理するから
一旦全てのお金を私に預けるということで、今月末からよろしくね!
彼女はチラッと僕のほうを見てニヤリとした。
勝者の笑みだった。

これから始まる結婚生活。
僕は人生の先輩として二人には何も話しかけることなく
すべてを上から見ていました。
言うなれば初々しいなという気持ちで見ていました。

経験した者は、まだしていない者の気持ちが良くわかる。
親、先輩には、自分たちの考えていることの多くは見透かされている。
自分たちが下の者の行動、言動が手に取るようにわかるように
経験が人生のほとんどを創り上げる。
さて、次はどんな経験をしましょうか。

喫茶店で会計を済ませた彼は、
小銭を財布にしまうと、
はやくも領収書を彼女に渡していました。
世界が平和でありますように。

おわり


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